『千字文』日本の学習法

いろは歌という歌があります。

皆さんご存じの、ひらがなを覚える用途で使われていた歌です。


↓この歌ですね。


いろはにほへと ちりぬるを

わかよたれそ つねならむ

うゐのおくやま けふこえて

あさきゆめみし ゑひもせす



それで、漢字交じりになるとこうなります。


色はにほへど 散りぬるを

我が世たれぞ 常ならむ

有為の奥山  今日越えて

浅き夢見じ  酔ひもせず



ひらがなを全文字使用し、一字も重複せず、しかも意味も通っているという凄いものです。

この歌を作った作者は不明です。

しかし、こんな芸当ができるのは、弘法大師であろうという事で、空海作と伝承されてきました。



では、いろは歌の漢字版は無いのでしょうか?

これも有りまして、『千字文』と言います。


こちらは、基本漢字千字で作られた詩で、同じく重複せず、韻も踏まれた凄いものです。

作者はわかっており、南北朝時代の周興嗣という文人政治家です。



出だしを書きますと、このような感じです。

全文を読みたい人は、パブリックドメインでありますので、リンクを張っておきます。

http://ja.wikisource.org/wiki/千字文_(日本語訳)



天地玄黃 宇宙洪荒

日月盈昃 辰宿列張



さて、この『千字文』が面白いと思うのは、日本での受け入れ方です。

上の文を普通に訓読すると



天地は玄黃にして、宇宙は洪荒なり。

日月は盈昃し、辰宿は列張す。



などと読めるでしょうが、子どもの学習用としては意味不明です。

そこで、どのように読んでいたのかというと、



天地のあめつちは、玄黃とくろく・きなり。

宇宙のおおぞらは、洪荒とおおいにおおきなり。


日月のひ・つきは、盈昃とみち・かく。

辰宿のほしやどりは、列張とつらなり・はる。


というように、漢音で発音してから、訓読するという方式です。


つまり中国語+やまと言葉になってる訳ですね。


これなら、子どもは漢字の読みと意味を覚えることができます。


しかも、漢詩の形式も理解でき、自分で書きますから書道の練習にも成ります。

なお、『千字文』原文は王羲之の書風をまねて書かれたものだそうです。



こんな一石二鳥どころではない、効率の良い学習法を編み出した、昔の人は凄いと思います。


戦前までの日本人は、漢詩くらいは自分で作れる人が多かった(そして、それを筆でサラサラと書く)そうです。

その理由の一端がわかるような気がしますね。


ぜひ、皆さんも一度『千字文』を音読してみてください。