『今昔物語』と釈尊伝1

仏教を知りたいと思う人は、まず釈尊(ゴータマ・シッダールタ)の言葉を探し、その生涯を知りたいと思うものです。
そして、そうした書籍を探すと、現代の学問の成果を取り入れた、優れた本が多く出版されています。
それらの本を読めば、より正確に釈尊の生涯を知ることができるでしょう。

しかし、私はこう思う事があるのです。
「昔の日本人が知っている釈尊とはどのような人なのか?」

たとえば、偉人の伝記を学ぶ時、それが昔であればあるほど、口伝え、「物語」として知るものでしょう。
我々が桃太郎や浦島太郎について知るように。

それは、必ずしも正確な情報では無いかも知れませんが、おきまりの名場面や小道具については誰でも知っているものです。

私達は
「川から桃が流れてきたら、そこには桃太郎が入っている事を知っている」
「竜宮城でもらった玉手箱を開けると、年をとる事を知っている」
これは、歴史的に正確かどうか関係なく「そういうものである」と知っている訳です。


同じように
「釈尊が悟りを開かれたのは、菩提樹の下である。」
という事は皆さんご存じでしょう。
歴史的に見てもおかしくない話ですから、概説書にも皆書かれます。

でも、お釈迦様の誕生日である花まつりで、どうして甘茶をかけるかはあまり知らない。

答えは、「誕生を祝う竜が甘露の雨を降らせた」から、です。
むろん、これは歴史上の事実かと言われると「?」ですので、教科書には載りません。
でも、昔の人には当たり前の話です(でしょ?)。

前置きが長くなりました。
ここで、皆さんご存じの古典『今昔物語』から、該当する部分を引用してみましょう。

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其(釈尊誕生)の時に四天王、天のかとり(絹布)を以て太子(釈尊)をとり奉て、宝の机の上に置き奉る。
帝釈は宝蓋(天蓋)を取り、梵王は白払を取りて左右に候ふ。
難陀・跋難陀の竜王は、虚空の中にして清浄の水を吐きて太子の御身に浴し奉る。
一度は温に、一度は涼し。
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これで、花祭りの釈尊像の上にある天井が何かもわかります。
帝釈天の持っている宝の天蓋です。
そして、難陀・跋難陀という竜王の名前もわかりました。


『今昔物語』はインド・中国・日本という三部構成ですが、そのうちインドの部分は、インド現地の物語を多く収録していることでも知られます。
要するに、インド〜日本まで民衆の物語も同じものが伝えられている、という事です。
ですので、私のような目的で釈尊伝を読みたい人には最適なのです。

次回、もう少し『今昔物語』本文を読んでみましょう。