界品


阿毘達磨倶舎論

尊者世親造

三蔵法師玄奘訳

 

分別界品第一

第一節 序

 

1 あらゆる方法で心の闇を滅し、人々を生死の迷いから抜け出させる、その理にかなう師(釈尊)を敬い、『阿毘達磨倶舎論』を私は説く。

2a 清らかな智慧とそれに伴うものを対法(アビダルマ)と言う。さらに、それを得るための様々な智慧と論とをもである。

2b アビダルマの勝義(本義・真実)を含んでいること、そして勝義に依っている、という理由で対法倶舎(アビダルマの蔵)と呼ぶ。

3 もし、法の正しい判別が無ければ、他に煩悩を滅ぼす方法が無い。

煩悩によって人は迷いの世界にいる。そのために、釈尊はアビダルマを説かれた、と伝えられる。

 

 

第二節 有漏・無漏、有為・無為

 

4 有漏法(煩悩に関わる法)と無漏法(煩悩に関わらない法)がある。

道諦を除いて、他の有為(因果関係の上に成立するもの)はそれによって漏(煩悩)が増加する。

そのため、有漏法と呼ぶ。

5 無漏とは、道諦と三種の無為である。

(その無為とは)虚空と二滅(択滅・非択滅)であり、そのうち、虚空は障るもの、抵触するものがない。

6 択滅(智慧による滅)とは、煩悩の拘束を離れる事である。煩悩の種類により別なものがある。

(縁が無く)最終的に現在の発生を妨げられると、また別に非択滅となる。

7 また、有為法は色など(受・想・行・識)の五蘊である。

あるいは、世路、言依、有離、有事などとも言う。

8 有漏を所蘊と呼び、また有諍とも言う。

あるいは、苦、集、世間、見処、三有とも言う。

 

 

第三節 蘊・処・界

 

9a 色蘊(物質)とは、五根(眼・耳・鼻・舌・身)と五境(色・声・香・味・触)、および無表色である。

9b この五識のよりどころである清らかな物質を、眼等の五根と呼ぶ。

10 色には2種類(顕色・形色)ある。

細分化すると20種(青・黃・赤・白・長・短・方・円・高・下・正・不正・雲・煙・塵・霧・影・光・明・闇)である。

声は8種類(有執受大種・無執受大種、有情名・非有情名、可意・不可意)ある。 

味は6種類(甘・醋・鹹・辛・苦・淡)ある。

香は4種類(好香・悪香・等香・不等香)ある。

触は11種類(四大種・滑性・澀性・重性・輕性・冷・飢・渴)ある。 

11 乱心(行為を行った心と異なる心)と無心(定心)等にしたがって浄・不浄となる、

四大種(地水火風)から成るもの。これを無表色という。

12 四大種は四界とも言う。それは地・水・火・風界である。

それぞれ保持・包摂・熟成・増長の作用があり、堅さ・湿りけ・温かさ・動きがその性質である。

13 顕・形色(いろ・かたち)の有る「大地」という世間のイメージにしたがって、地界という名称が付けられた。

水・火も同じである。風は(世間のイメージが)そのまま風界である。また、やはりそうではないという説もある。

14a 色蘊のうち、五根と五境を(十二処の)十処、(十八界の)十界とする。

14b 受蘊は接触に伴うものを受用する作用。想蘊は表象する作用である。