第一段 因縁分


『大乗起信論』

馬鳴(アシュヴァゴーシャ)菩薩 著

真諦(パラマールタ)三蔵 訳

沙門拓雅 謹訳

 

 

【序分】

 

〔三宝帰依〕

世界にあまねく働く智慧。

物質(かたち)にとらわれず自在であり、

世を救う大いなる慈悲である仏(ブッダ)と、

その仏の本性である法(ダルマ)、あるがまま真実の海、限りない善の宝庫と、

その法のままに生きる人々(サンガ)とに帰命します。

 

人々が、疑いなく、悪しきとらわれを離れ、

大きな乗り物(大乗)である、みずからの心を信じ、仏の種がとだえる事がありませんように。

 

 

【正宗分】

 

〔目次〕

ここに『「大乗=心」を信じる力を起こす法(大乗起信論)』を説きましょう。

全体で5段に分かれています。

 

第1段 この本を書いた理由(因縁分)

第2段 概要(立義分)

第3段 内容の解説(解釈分)

第4段 修行の方法(修行信心分)

第5段 修行の結果得られるもの(勧修行利益分)

 

 

第1段 この本を書いた理由(因縁分)

 

はじめに、「この本を書いた理由」を説きます。

 

問い。

どのような理由でこの本を書いたのですか?

 

答え。

その理由は8つあります。その8とは何でしょうか?

 

⑴仏教全体に共通の理由。それは、人々にあらゆる苦しみから離れ、究極の楽しみである悟りを得てもらうためです。

世間的な名誉・財産、尊敬を求めるためではありません。

 

⑵仏陀の教えの根本を解説し、多くの人々が正しく理解でき、誤らないように願うからです。

 

⑶善を行う力(善根)が成熟した人々には、大乗の法を身につけて、後戻りしないようにするためです。

 

⑷善を行う力が少ない人々は、心を信じる事を習い、身につけるようにするためです。

 

⑸過去の、悪い行いの結果である障害を消し、自分の心を護る方法を伝え、愚かさや高慢さから離れ、邪(よこしま)という網からのがれるためです。

 

⑹止観(瞑想)を習い、身につける方法を伝えて、人間、自分の事だけを考える、という心の過ちを改めるためです。

 

⑺仏陀を思い続ける、という方法を伝えて、死後、仏陀の居られる場所へ生まれ変わる。そして、その導きによって悟りに至るように、退かない信心を得るためです。

 

⑻その利点を説明して、修行を勧めるためです。

 

以上のような理由で、この本を書いたのです。

 

〔本論の特色〕

問い。「経典の中に、このような教えはすでに有るのに、どうしてまた改めて書こうとするのですか?」

 

答え。「経典の中に、この教えは有りますが、人々の能力・修行の進み具合は同じではないことと、学ぶ機会も異なるので書きました。

 

つまり、釈尊が居られた時代には、人々の能力も優れていました。また教師である釈尊は心身共に優れ、ひとたび説法されると、どんな人でも同じように理解できたので、教科書を使う必要がありませんでした。

 

しかし、釈尊以後は、能力の異なる人がいます。

たとえば、自力で様々な人から学び、理解する者。

また、少し聞くだけで、多く理解できる者。

また、自分では理解できないが、様々な本を読んで理解する者。

ページ数の多い本を読むのが煩わしく、短くまとめられた文を好んで理解する者。

 

このような状態ですので、仏陀の広く深い教えをすべて含んだものが欲しいと思っています。

そのため、この本を書いたのです。