大乗起信論


「大乗仏典といっても一宗一派に偏らず全体としての見通しをつけるには先ず『大乗起信論』などを予め読んでおいた方が都合がよい。中国でも日本でもそういう目的でこの本が広く用いられてきた。現在では「概論」や「入門」が何種類もあるが、やはり古典的な書物に親しむに越したことはない。」(『渡辺照宏著作集 第八巻』より引用)

 

 

だいじょうきしんろん 【大乗起信論】  [ 日本大百科全書(小学館) ]

仏教論書。一巻。略して『起信論』ともいう。インドの仏教詩人アシュバゴーシャ(馬鳴(めみょう)。2世紀)の作と伝えるが、おそらく5~6世紀の成立と考えられる。パラマールタ(真諦(しんだい)。中国梁(りよう)代)とシクシャーナンダ(実叉難陀(じっしゃなんだ)。唐代)による2種の漢訳が伝わっており(いずれも『大正新修大蔵経』第32巻所収)、一般には真諦訳が多く用いられる。本書の作者、訳者、成立事情などについては古来、異説が後を絶たず、とくに大正から昭和の初期にかけて、インド成立か中国成立かをめぐる学会の大論争があった。大乗とはなにかということを、理論と実践の両面から、唯心論の立場で簡潔に論述した大乗仏教の名著である。第1章「因縁分(いんねんぶん)」(論を著す理由)、第2章「立義(りゅうぎ)分」(問題の所在)、第3章「解釈(げしゃく)分」(詳細な理論的説明)、第4章「修行信心分」(実践と信心)、第5章「勧修利益(かんしゆうりやく)分」(本論の実習を勧めて利益を説く)の5章からなる。本書の思想がインド仏教において採用された形跡は見当たらないが、中国、日本の仏教思想に及ぼした影響は大きく、現在に伝えられた注釈文献の数は約300種に達する。

 

[ 執筆者:柏木弘雄 ]

 

・著者について

めみょう 〔メミヤウ〕 【馬鳴】

(梵)Aśvaghoṣaの訳》2世紀ごろのインドの仏教詩人。バラモンの論師から仏教に帰依し、カニシカ王の保護を受けた。技巧的なカービヤ(美文体)文学の先駆となり、叙事詩「ブッダチャリタ(仏所行讚)」などの作品がある。生没年未詳。アシュバゴーシャ。(『デジタル大辞泉』より引用)

※現在の学説では、詩人の馬鳴と『大乗起信論』の馬鳴は別人とされている。

 

・訳者について

しんだい 【真諦】
(梵)Paramrtha》[499~569]インドの僧。梵語(ぼんご)経典を持って中国に渡り、梁(りょう)末の戦乱で各地を転々とした。その間、金光明経・摂大乗論・中辺分別論・大乗起信論など多くの典籍を漢訳した。(『デジタル大辞泉』より引用)

 

・出典

『大正新脩大藏經』32巻(No.1666)