成実宗


第二章 成実宗

第一節 成実宗の名称

 

問い。なぜ、成実宗というのか。

答え。『成実論』をその根拠としているので、成実宗というのである。

「成実」とは、釈尊が説かれた三蔵の中の真「実」の意義を解釈して「成」り立たせるするという意味である。したがって、この論の筆者の述べるところに「したがって、私はまさに三蔵の中の真実の意義を論じたいのだ。」とある。以上は『成実論』第一の初めに出ている。

 

 

第二節 成実論の製作と翻訳

 

問い。この『成実論』は釈尊入滅後何年に、誰が書いたのか。

答え。釈尊入滅後九百年に、説一切有部の学者倶摩羅陀(クマーララータ)の弟子訶梨跋摩(ハリヴァルマン)がいた。

彼は、師の見解がはなはだ拙劣であると思い、諸宗派の勝れた点を選んで一宗を立てた。

中国が姚朝の秦国の時代、鳩摩羅什(クマラジーヴァ)三蔵が『成実論』翻訳して広めた。一部十六巻二百二品になる。

中国の学僧は多くの注釈書を書き、日本でもこれによって学ばれた。

 

 

第三節 成実宗と大乗・小乗の関係

 

問い。成実宗は小乗二十部のうち、何部に当たるのか。また、勝れた点を選んでいるとは、何を意味するのか。

答え。成実論が依拠する部派を確定するのに、解釈が分かれている。

その説を列挙する。

・多聞部(バフシュルティーヤ)に依る

・経部(サウトラーンティカ)に依る

・大乗の見解で小乗を解釈している

・曇無徳部(法蔵部・ダルマグプタカ)に依る

・諸派の長所を取ったもの(小乗の諸派である)

・化地部(マヒーシャーサカ)に依る

 

また、梁の三大法師と呼ばれる光宅寺の法雲法師、開善寺の智蔵法師、荘厳寺の僧旻法師の三家は、成実論は大乗であるとの見解である。

 

天台智顗と嘉祥吉蔵は小乗であると判断している。

 

南山道宣と霊芝元照はともに部分的に大乗に通じているとしている。(四分律と同じ説である。)

 

このように諸師の説は様々で一致しない。

しかし、浄影寺慧遠や天台智顗と嘉祥吉蔵の隋の三大師以降は、大旨『成実論』は小乗の中で最も勝れたものと言われている。

ただし南山律師は、理論は小乗であるが本義は大乗に通じているとしている。

小乗のうちでは、経部に依るとする説が多く、または 曇無徳部という説が多い。

 

 

第四節 成実論の宗

 

それでは「諸宗派の勝れた点を選んで一宗を立てた」とはどのような意味か。

成実宗では詳しく我空と法空という二空を論じている。

そして、一切を観察するため二つの立場を設定している。

 

⒈人空観。花瓶の中に水が無く、空っぽであるように、人間の構成要素(五蘊)にも私自身(我)というものはどこにも存在しない。

 

⒉法空観。花瓶の中に水が無いだけでなく、花瓶自体も存在しない。 人間の構成要素(五蘊)自体も仮のもので、実体は存在しない。

 

このように二つの空を論じているところが、「最も勝れた」と言うのである。

 

 

第五節 修行の階位

 

問い。もし、二空を論じているなら、我(アートマン)と法(ダルマ)に対する執着から離れることができるのではないか。

答え。そうはならない。二空を論じているが、感情的な煩悩(煩悩障)は離れることができても知的な煩悩(所知障)を離れることはできない。

理論として真実を知っていても、体得している事とは別であるから。

 

『成実論』では二十七賢聖を立て、修業の段階を説明している。

二十七賢聖とは1随信行。三慧の聞思位である。2随法行。三慧の四善根位である。3無相行。前の二人が見道に入った位。この三人を預流向という。4須陀洹果。5一来向。6一来果。7不還向。次は不還果だが、これを十一種類に分ける。

8中般。9生般。10有行般。11無行般。12楽慧。13楽定。14転世。15現般。16信解。17見得。18身証。この不還果の十一と前の七を合わせた十八を有学人という。

以下の九はみな無学人である。

19退法相。20守護相。21死相。23住相。24可進相。不壊相。25慧解脱。26倶解脱。27不退相。

これに前の十八を合わせて二十七賢聖となる。

 

 

第六節 八十四法

 

また、『成実論』では一切を八十四法に分類している。

 

 

第七節 成実宗の特色

 

成実宗は、大乗ではないと言っても、小乗の中で最も優れたものである。

これは大乗ではないのか?と怪訝に思う。

一切諸法はみな滅せられる。空の理が証明され、すべてはその上に成り立つ。

万物に実体があるというとらわれは氷のように溶け、すべては仮に組み合わされた存在が、林のように立っている。

 

空と有が一体となったその理論は深い。